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講話

20250407 入学式式辞

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 桜満開の今日この日に、新しく、70期生190名が新たに学院ファミリーに加わってくれたことを心から、嬉しく思っています。また、ご家族の皆様、ご子息の晴れの日を心よりお祝い申し上げます。私立中学を受験する、と決めた日から、今日にいたるまで、各ご家庭で様々な苦難や喜びの日々をご経験されたことと思います。小学校最高学年としての日常生活に加え、習い事と受験の両立、連日の夜遅くまで続く塾の授業、ご家族の皆様におかれましても、送り迎えや学びの伴走などなど、きっと本校に入学する今日この時までは、「頑張ったよ」「よく頑張ったね」の一言では言い表せない毎日を送られていたことと存じます。そのご生活の最後の選択として、数ある学校の中から広島学院を選んでいただいたこと、心よりお礼申し上げます。合格発表の日や新入生登校日の皆様の様子を陰から拝見させていただき、私たちもそのご期待に沿える学校でありますよう、心が引き締まった次第です。

 申し遅れましたが、この4月より広島学院中学校・高等学校の校長を務めております、阿部祐介と申します。私も、皆さんと一緒で、校長1年生です。1年生同志、怖いもの知らずのチャレンジ精神で新しい学院の時代を一緒に切り開いていきましょう。

 広島学院は皆さん70期生を迎えた本年度、創立70周年を迎え、”FORWARD AGAIN“(もう一度、前へ)を合言葉に、新校舎建設に向けて動き出します。70年の伝統を大切にしつつ、70期生の皆さんと共に新たな学びを創造し、より善い社会創生のお手伝いができることを心から嬉しく思っています。現在、新校舎の最終設計作業を進めており、10月からはいよいよ第1期工事が開始され、全てが完成するのは皆さんが中3になった秋です。仮設校舎は作らず、建設中も現校舎で授業は続けます。この間、前庭は使用ができませんが、それ以外、全グラウンド、全体育館、本館西館すべての施設は今まで通り使用できますので、心置きなく学び、遊び、鍛えて下さい。

 新しい友達ができるかな、勉強についていけるかな、何かに打ち込むことができるかな…様々な期待や不安を持って、今日、皆さんはここにいるかと思います。でも、安心して下さい。先輩たちは、いつでも皆さんのお手伝いや声掛けをしますし、クラスには担任と副担任の二人の先生方が皆さんの様子をいつも見て下さいます。学院での学習もゼロからの横一線のスタートで、先生方も分からないことがあれば、基礎的なことがらから応用まで、とことん、皆さんに付き合ってくださいます。2日間も過ごせば、気の合う愉快な新しい仲間ともうちとけ、不安もすぐに消えていくかと思います。安心して、これからの学院生活を大いに楽しみ、大いに学んで下さい。

 さて、「学ぶ」ということは、本来、とても贅沢なことです。皆さんは、当たり前のように学校で、塾で、習い事でいままでもたくさんの学びを重ねてきたことでしょう。でも、それは、当たり前のことではく、とても贅沢はことなのです。

 広島学院の活動では、希望する生徒は、東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨、能登半島地震などの災害被災地やフィリピンなど外国のスラム街を訪れる機会があり、そこでは、小さな子供たちと接する機会が多くあります。決まってかの地の子供たちが口にする言葉があります。

 「早く学校に行きたい。」「早く学校で友達と会いたい」「学校で勉強してみたい」

 日々食べる物や寝るところを心配することなく、「学ぶ」ということが生活習慣になっている皆さんが、この学校で学ぶ意味・意義とは何でしょうか。地元の公立学校ではなく、他の国立私立の学校ではなく、広島学院に皆さんが進学した意味・意義とは何でしょうか。

 先ほど新約聖書のマタイによる福音書の一部が朗読されました。「あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、いちばん上になりたい者は、皆の僕になりなさい。」。この箇所には、広島学院の設立母体である、イエズス会が大切にしている「仕えるリーダーシップ」の考え方が描かれています。「仕えるリーダーシップ」…少し、聞きなれない言葉ですね。

 通常、リーダーシップ、というのは、皆の先頭に立って、皆を鼓舞し、積極的に指示を出し、牽引するなどのことを示します。もちろん、このリーダーシップはこのリーダーシップで、大切なものです。しかし、イエズス会が大切にしている「仕えるリーダーシップ」の意味することは、そこではありません。

・病気でお休みした友達に、翌日、そっとノートのコピーを渡すことができるリーダーシップです。
・電車で重そうな荷物をもったご老人に、迷わず席を譲ることができるリーダーシップです。
・海の水を淡水化する研究を重ね、その技術を水不足で苦しむ人達のために実用化することに奔走する、そういいうリーダーシップです

 すなわち、「仕えるリーダーシップ」というのは、人が見ている、見ていないにかかわらず、自分が得する、損するにかかわらず、心をぐるりと、困窮した立場にある他者に向け、一歩を踏み出すリーダーシップのことを示します。

 全世界2,500校余り、163万人以上が学ぶイエズス会の教育は、社会的・経済的エリートを育てることを目的としておらず、社会に仕えるための指導者を育てることを目的としています。権力や財力や実力・能力をかさに人々を従わせるリーダーシップではなく、自分よりも小さく弱い立場にある人のために力を尽くせるリーダーシップのことを示します。広島学院では、被災地支援活動や地域での炊き出し活動、児童施設や高齢者施設での活動など、「仕えるリーダーシップ」を学ぶことができる活動が沢山ありますので、是非、折を見てチャレンジしてみて下さい。見える世界・景色が少しずつ変わってくれば、それは皆さんの成長のあかし、と思ってもらえれば、と思います。

 私たちの生きる世界は、決して穏やかなものではありません。パレスチナの紛争、自国ファーストの欧米諸国のリーダーシップ、目に余るヘイトスピーチ、環境破壊、エネルギー問題などなど。皆さんが、日本が、世界が直面する課題は多岐にわたります。そして、この混迷する世界の中で、皆さんの才能、タレントを必要としている人が必ずいます。これからの新しい学びに「仕えるリーダーシップ」を結び付けて、置き換え不可能な、かけがえのない存在になって下さい。個性豊かな仲間、先生方との学びあいの中で、それぞれが唯一無二の存在となり、「人の喜びが自分の喜びである」という世界観を6年間で身につけてくれることを切望します。そして、皆さんの磨かれた才能が、この世界、社会を明るく照らしてくれることを期待します。70期生の新しい学院ファミリーの皆さん、ようこそ、広島学院へ。

 最後になりましたが、新入生の保護者の皆様、ご子息のご入学おめでとうございます。大切なご子息を本校に託して下さり、私どもも身が引き締まる思いでございます。

 広島学院は、“ for others, with others”を体現するリーダーの育成を教育目標に掲げています。ご子息にはこれからの6年間、持てる才能や能力をより高めるとともに、豊かな心を育み、調和のとれた人格を形成して、将来それぞれが進む道で、人の幸せのために自分の力を惜しみなく発揮する人間に育ってもらいたいと願っています。そのために、生徒一人ひとりが様々な学びを積極的に求め、探し、深く心を耕すことができるよう、教職員一同、日々努力をしてまいりますので、保護者の皆様におかれましても、どうぞ私どもの教育にご理解を賜りご協力くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

 新入生とご家族の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、式辞とさせていただきます。

2025年4月7日
広島学院中学校
校長 阿部 祐介