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講話

卒業式式辞

暖かな春の訪れの感じられる本日このよき日に、ご来賓の皆様をお招きして、広島学院高等学校第56回卒業式を挙行できますことは、56期卒業生やご家族の皆様、そして私たち教職員一同にとりまして大きな喜びです。またこの56期生の卒業を、卒業50年目をお迎えになる7期生の皆様が、1階席の後方から見守ってくださっています。
 ご来賓の皆様、そして7期生の皆様、ご臨席ありがとうございます。

 56期生の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
 6年前、君たちは、真新しい少し大きめの制服に身を包み、ぴかぴかの制靴を履き、おそらくは大きな希望と多少の不安を胸に抱きながら、前廣校長先生から入学許可宣言を受けて広島学院の生徒になりました。
 ちょうどその1ヶ月ほど前、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故という、未曾有の大災害が起こりました。日本中が喪失感に覆われ、明日への希望がなかなか感じられない中で、人と人との繋がりに生まれる温かさが大きな活力になるということを教えられました。そして、真の豊かさとは何か、それを得るために何を大切にしなければならないのかということを、私たちはずっと考えさせられてきました。
 一方世界に目を向けると、東西冷戦の終結後に動き始めたグローバリゼーションは、国境を越えて経済活動を活発化したものの、格差を生み、環境破壊を生み、テロを生み、この数年は反グローバル化の動きが顕著になってきました。昨年、イギリスはEU離脱を決め、アメリカでは多様性を象徴する大統領から国境に壁を造ろうと唱える大統領へ政権が移りました。排外主義や国際協調の放棄が広がれば、新たな危機や紛争を招くことになるでしょう。
 東日本大震災において直接的には大きな影響を受けなかった私たちは、被災された方々の痛みをどれだけ自分のことのように受け止められるのか、問われました。同じように、今、世界中で起きている悲惨な状況を、私たちはどう受け止めるべきなのか、問われています。

 「若者の教育は世界の変革である」イエズス会はこの強い信念のもとに、450年以上前から世界中で教育活動に携わってきました。このイエズス会の教育が今目指しているのは「人間の尊厳が守られる世界」への変革であり、men for others, with othersという生き方によって実現されるものです。othersとは弱い立場にある多様な人々です。menとはその多様性を認めるだけでなく受け入れる人です。
 ローマ教皇フランシスコは「壁ではなく橋を造るべきだ」というメッセージを発信されましたが、これは単に国境の問題だけに留まりません。私たちの心の中に、壁ではなく懸け橋を造り、異なる宗教や人種、文化を、互いに認め、共存できる道を開くことが、今の世界に最も求められていることだと思います。
 これからそのような世界へと飛び立つ君たちには、どうせ自分の力では世界は何も変わらないなどとは言わないでもらいたい。そうではなく、心の中の壁を取り除くことから世界の変革が始まるという希望を持ってもらいたい。そしてグローバルな視点で本当の豊かさを求めながら、身近なところから行動を起こしてもらいたい。イエズス会学校で6年間学んだ君たちは、世界の変革の一翼を担う確かな力として期待されています。

 ところで、卒業証書授与に先立ち、マタイによる福音が朗読されました。その個所を少し振り返ってみます。
 イエスのもとに大勢の人々が集まってきました。その中には、病気の人、貧しい人、虐げられている人などもたくさん含まれていたでしょう。その群衆を見て、イエスは小高い山に登り、教えを語り始めました。いわゆる「山上の説教」です。その一部に先ほど朗読された個所があります。
 イエスは群衆に向かって「あなた方は地の塩である」「あなた方は世の光である」と言われました。「地の塩でありなさい」とか「世の光になりなさい」というのではなく、「地の塩である」「世の光である」と宣言されました。
 適量の塩は命を保つために欠かせないし、調味料として防腐剤として、地味だけどもなくてはならない。同じようにあなた方も、目立つかどうかは関係なく、なくてはならない存在として、様々な方法で、様々な形で、人のために自分を役立てることができるはずだ。
 また山の上にある町は隠れることなく、いつも道標として輝いている。同じようにあなた方も、ありのままの姿で輝いているのだから、燭台に置いたろうそくのように、多くの人を照らし希望へと導く光になることができるはずだ。
 イエスはこのように私たちに教え、私たちを励ましておられるのではないでしょうか。

 君たちは、広島学院で6年間、多くの仲間とともにたくさんのことを経験し学びました。そして君たち自身の努力があり、またご家族の支えもあって、知性を磨き、豊かな心を育んで、立派な青年に成長しました。
 この広島学院での6年を糧に、これからもさらに研鑽を積み、修養に励んでください。卒業しても広島学院の校歌にある通り、4つの宝を胸に温め、理想を貫き生きてください。そして、それぞれに与えられた場で、それぞれに与えられた力で、正義と平和の実現に貢献してください。君たちが、地の塩、世の光として、素晴らしい人生を歩んでいかれるよう、私たちは祈っています。

 最後になりましたが、56期生の保護者の皆様、ご子息のご卒業おめでとうございます。
 皆様にはこの6年間、楽しい思い出もたくさんおありでしょうが、ご苦労も多かったことと思います。反抗期まっただ中のご子息に、腹立たしい思いをされたこともあったでしょう。親離れ、子離れの苦しみを味わわれた方もいらっしゃるでしょう。それでも皆様は、毎日お弁当を持たせ、健康に気遣い、ご子息の成長を願われたことと思います。
 56期生諸君は、今まで君たちを励まし支えてくださったご家族に、今日、きちんと卒業の報告をし、感謝の気持ちを伝えてください。
 私からもあらためまして、保護者の皆様のご苦労に敬意を表しますとともに、皆様からいただいた数々のご支援ご協力に対しまして、心から感謝を申し上げます。6年間、ありがとうございました。

 卒業生とご家族の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、式辞とさせていただきます。