卒業式式辞
寒さも随分和らぎ、日に日に明るさも増して、暖かな春の訪れが感じられるようになってまいりました。このよき日に、ご来賓の方々をお招きして、広島学院高等学校第53回卒業式を挙行できますことは、53期卒業生やご家族の皆様、そして私たち教職員一同にとりまして大きな喜びです。
また、この53期生の卒業を、卒業50年目をお迎えになった4期生の皆様方が、2階席から見守ってくださっています。
ご来賓の皆様、そして4期生の皆様、ご臨席ありがとうございます。
53期生の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
6年前の2008年4月、君たちは、今と同じようにこの前の席に座り、中1の担任であった河喜多先生、渡部先生、寒川先生、下前先生から一人ひとり名前を呼ばれて、広島学院の生徒になりました。この2008年は、北京オリンピックがあり、柔道や水泳、ソフトボールなどでの日本選手の活躍に沸きました。4人の日本人の学者がノーベル賞を受賞するという快挙もありました。一方、アメリカのリーマンブラザーズの破たんが、世界的な金融危機の引き金になり、日本経済の大幅な景気後退にもつながった、そういう年でした。
それから6年、3学期の始業式でも少し話しましたが、確かに日本の経済は上向いている、明るい兆しがあるという見方もあります。しかし、日本の内外を取り巻く状況に目を向けると、とても楽観視できないような不安な要素、解決しなければならない難問が山積しているのも事実です。これからそのような世界へと巣立っていく君たちには、ぜひ高い志と広い視野を持って、未来を切り開いてもらいたい。周りを明るく照らす存在になってもらいたい。今期待されているのは、間違いなく、そういった希望を感じさてくれる若い力だと思います。
「若者の教育は世界の変革である」この強い信念のもとに、イエズス会は450年以上前から、世界中で青少年の教育に携わってきました。「世界を見据えながら、身近な問題に向き合い行動する若者を育てたい」そういう思いで、イエズス会は教育活動を続けてきました。そのイエズス会の学校である広島学院で6年間を過ごした君たちは、まさに、世界の変革の一翼を担う若い力として期待されています。
世界の変革というと、今日、グローバリズムという言葉はよく耳にしますが、グローバリズムが、単に「地球規模での経済活動」という面ばかりを強調してしまうと、富める者がますます富みを得て、経済格差を一層深めることにもなってしまいます。本来のグローバリズムは、環境、食糧、エネルギーなどの問題を、国を超えて人類の協力によって解決するという視点に立つべきものです。
イエズス会の教育が450年目指してきた世界の変革は、貧しい人々、抑圧された人々の立場を大切にした本来のグローバリズムによるものであり、“men for others, with others”という生き方によって、実現されるものです。
ところで、卒業証書授与に先立ち、マタイによる福音が朗読されました。その個所を少し振り返ってみます。イエスのもとに、大勢の群衆が集まってきました。その中には、病気の人、貧しい人、虐げられている人たちなども、たくさん含まれていたでしょう。その集まった群衆を見て、イエスは小高い山に登り、腰をおろして語り始めました。いわゆる「山上の説教」です。その一部に、先ほど朗読された個所があります。
イエスは群衆に向かって「あなた方は地の塩である」「あなた方は世の光である」と言われました。「地の塩でありなさい」とか「世の光になりなさい」というのではなく、「地の塩である」「世の光である」と宣言されました。
適量の塩は命を保つために欠かせないし、調味料として、防腐剤として、地味だけどもなくてはならない。同じように、私たちも、目立つかどうかは関係なく、なくてはならないものとして、世の中のために自分の役割を果たすことができるはずだ。
また、山の上にある町がいつも隠れることなく、ありのままの姿でふもとから見えるように、私たちも、ありのままの姿で輝いている。だから、ともし火を燭台において部屋を明るく照らすように、私たちも、多くの人の前で希望の光として輝くことができるはずだ。
マタイの福音は、このように私たちに教え、そして私たちを励ましているのではないでしょうか。
君たちは、広島学院で6年間、多くの仲間とともに、たくさんのことを経験し学びました。知性を磨き、豊かな心、開かれた心を育んできました。そして、君たち自身の努力があり、またご家族の支えもあって、立派な青年へと成長しました。
この広島学院での6年を糧に、これからもさらに研鑽を積み、修養に励んでください。
卒業しても、広島学院の校歌にある通り、4つの宝を胸に理想を貫き生きてください。
正義と平和に満ちたより人間的な社会の建設に、貢献してください。
君たちが、それぞれに与えられた場で、それぞれの持てる力で、地の塩、世の光として活躍されることを、私たちは楽しみにしています。
最後になりましたが、53期生の保護者の皆様、ご子息のご卒業、おめでとうございます。そして、この6年間に皆様から頂きました数々のご支援、ご協力に対しまして、心からお礼を申し上げます。
おそらく皆様は、ご子息が少年から青年へと成長していく過程で、親離れ、子離れの苦しみを味わわれたことでしょう。反抗期まっただ中のご子息に、戸惑いを感じられたこともあったのではないでしょうか。それでも、毎日お弁当を持たせ、健康に気遣い、ご子息の成長を願われたことと思います。
53期生諸君には、確かに成長した証として、今日まで君たちを励まし支えてくださったご家族に、今日、きちんと卒業の報告をし、感謝の気持ちを伝えてもらいたいと思います。私からも、あらためまして、保護者の皆様のご苦労に敬意を表し、感謝を申し上げます。6年間、ありがとうございました。
卒業生とご家族の皆様の上に、神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、式辞とさせていただきます。