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講話

2学期始業式

 おはようございます。
 広島県に緊急事態宣言が発令されている中、今日から2学期が始まります。全国の新規感染者数は昨日も1万7千人余りと多い状態が続き、自宅療養者が増えて、症状が悪化してもすぐには病院で診てもらえない事例がよく報道されています。今のデルタ株は感染力が非常に強く、10代の若い感染者が急増しているということも、学校としては大変気になります。厳しい状況が続きますが、私たちにできることは、もしもの時のことを考えてきちんと感染対策をとるということです。それについては、後ほど生徒指導部長の三谷先生に話をしていただきます。

 さて、現在パラリンピックが開催されていますが、夏休みの前半には東京オリンピックが開催されました。今回のオリンピックは、準備段階からいくつもの疑惑や不祥事が問題になりました。さらに予期せぬパンデミックにより開催が1年延期になり、この夏の開催にも否定的な意見が世論調査で多数を占める中での開催になりました。競技が始まると、色々な選手の活躍があり、また勝ち負けに関わらず多くの感動的な場面もあり、私もテレビで楽しませてもらいました。ボランティアの人たちの献身的な働きも、海外から高く評価されていました。そんな今回のオリンピックについて、みんなそれぞれに色々な思いを持っているでしょうが、それはさておき、この大会のコンセプト(大会を貫く基本的な考え方)の1つとしてダイバーシティとインクルージョン(Diversity & Inclusion)が掲げられていたことについて、少し話をします。

 ダイバーシティは「多様性」と訳されますが、ここでは「一人ひとりが持つ様々な違い」のこと。インクルージョンは「受け入れる」「活かす」という意味です。ビジネスの世界では「企業の成長戦略として、ダイバーシティとインクルージョンは重要である」というような形で、日本でも20年ほど前から使われていた言葉だそうです。年齢や性別、人種や国籍、宗教や信条、心身の機能など、一人ひとりの違いを認め、受け入れて、違ったものの見方を取り入れることのできる組織が成長し、利益を生むということです。もちろん企業の利益も大事なことでしょうが、それよりも人権問題として一人ひとりの人格を尊重するという立場から、私たちはダイバーシティとインクルージョンをごく当たり前のこととしなければいけない。この意識がお互いを成長させ、本当に豊かな社会を作ると思います。

 ところで、前回の東京オリンピックは1964年に開催されました。私は小学2年生で、我が家で初めて買ったばかりの白黒のテレビで毎日見ていました。日本選手の活躍やファンファーレが響く表彰式、華やかな開会式、閉会式に心躍らせたものです。直前には東海道新幹線が開通し、すごいなと思ったこともよく覚えています。この大会は「日本が戦災から復興したことを世界に示す」という意義で開催されましたが、当時私は、日本が20年ほど前に悲惨な戦争をしていたということを、全く知りませんでした。学校では、戦争や敗戦には触れずに、日本の未来は明るいということをずっと教えられていたと記憶しています。実際にその4年後には、日本は世界第2位の経済大国と言われるまでになり、その後も経済成長を続け、確かに物質的に豊かになりました。
 それから57年経った今回の東京開催では、ダイバーシティとインクルージョンという大会のコンセプトに反して、女性蔑視等の不適切な発言や、タレントの容姿を侮蔑したり弱者を揶揄したりするといった、多様性が尊重されていない残念な事柄がいくつも明らかになりました。こういったことが起こる背景の1つには、戦後の復興の中で、自分とは立場の違う人を受け入れたり弱い立場の人を守ることよりも、個人や社会の経済的な利益を追求することに日本全体で一生懸命になっていたことがあるのではないかと、私は思います。

 今回のオリンピックもそうですが、近年は一昔前と比べると、日本代表として活躍する多様な人の姿をよく見かけるようになりました。本当にいいことだと私は思います。今回の東京オリンピックが、私たちにとって、多様な人々とみんなで本当の豊かさを求めていく意識を高める契機になればいい。そのためにも、この夏に日本で開催されたオリンピックのコンセプトがダイバーシティとインクルージョンであったということを、みんなも記憶に留めておいてもらいたいと思います。

 始業式の話は以上です。コロナとの闘いはまだまだ続きますが、コロナ禍ではあっても、今できることをみんなで一生懸命にやったと言えるような2学期にしていきましょう。